プロとの仕事 ー日本酒ラベルを作ろうー

TSURUMIこどもホスピスロゴマーク

ロゴのお父さん

TSURUMIこどもホスピスのオープン以来、スタッフや子どもたちにとって、とてもなじみ深い相棒のロゴマーク。私たちは「つるみちゃん」と呼んでいます。

ホスピスの子どもたちはよくロゴの絵やレジンを作ってプレゼントしてくれるし、まだ「ホスピス」と呼べないような年齢の子も、どこかでこのマークを見ると反応して行きたいと伝えてくれるそうです。子どもにも認知度抜群のつるみちゃん。私たちの活動にずっと寄り添ってくれる、まさしく「相棒」です。

子どもたちが作ってくれたロゴ作品

このロゴをデザインしてくれたのが、OUWN株式会社の代表でありデザイナーの石黒篤史さんです。
昨年タグライン入りのロゴをデザインしてくれたことがきっかけで再び交流が始まりました。デザイン業界の第一線で活躍されているロゴパパの石黒さん。何らかの形で子どもたちと関わってほしいと願っていました。

子どもたちに「こんな人がロゴを作ってくれたんだよー」と紹介したいし、ティーンエリア改装中の時期でもあり、ティーンにとっての素敵なお兄さんになってほしい。大きな病気で周囲との違いから自信をなくしがちな子どもたちに、学校と病院以外にも世界があり、素敵な人と出会えることを知ってもらいたい、と思ったからです。

日本酒ラベルをデザイン

そういったなか石黒さんから提案されたのが、実際に市場に流通する日本酒のラベルをデザインする機会でした。石黒さんが関わっている山口県にある「阿武の鶴酒造」さんの新商品のラベルを、子どもたちと一緒に制作できないかというお話しでした。
”子ども”とも”ホスピス”とも似つかわしくない、お酒という切り口がユニークだったし、子どもが制作したものが実際に市場に出回り、誰かの手に渡る経験はとても貴重なものなので、ぜひ!とお願いしました。

山口県・阿武の鶴酒造の正面玄関

プロの考え

では実際どのようにこのプロセスを進めるか、石黒さんと「阿武の鶴酒造」代表であり杜氏の三好隆太郎さんと相談をはじめました。最終的にラベルにできるのは多くて5名分とのこと。でも私はできるだけ多くの子にデザインも製品化も体験してもらいたかった。たくさんの子に絵を描いてもらい、結果数名分しかラベルにならないのは酷だと伝えました。
そこでお二人から返ってきたのが「でも、それも含めてデザインだと思うんですよね」という言葉。はっとさせられました。確かにそうだ。

私はどうしても「みんな一緒に、横並びがいい」と考え実践していく傾向があります。それがピタリとはまるケースもありますが、実際の業界はそんなに甘くないのも事実。へんな優しさでなんとなくな体験をプレゼントすることが、本当に良い時間に繋ががるのか?と疑問が生まれました。石黒さんや三好さんの方がフェアに子どもたちを捉えてくれているな、と自分の考えを省みました。

それに、第一線のデザイナーとみっちり関われる機会を最大限に活かすなら、今回は広く薄くの体験ではなく、デザインを志す子にとって将来本当に役に立つ濃い時間を作ることが、一番良い。そこで参加対象を「中学生以上で、将来デザインを仕事にしたいと思っている方」としました。

普段とは違うこどもホスピス

参加を希望してくれたのは3名、当日参加できたのは2名。
具体的にデザイナーになるために将来設計をしている高校2年生の優太くんと、絵を描くのが大好きで、そういうお仕事につけたらと考えている中学1年生の愛里さん。
2人には、事前に今回の商品テーマである「融合と調和」を軸にデザインを描いてくる、という宿題(難題!)が出されました。

愛里さんの作品
優太くんの作品

ワークショップ当日、2人が提出したのがこちらです。2人とも悩みに悩んで、ちゃんとテーマを解釈して制作してきてくれました。

これをもとに、石黒さんとコミュニケーションを取りながら、実際の市場流通品として通用しうるクオリティーに仕上げていきます。2時間という限られた時間です。優太くん、愛里さん、石黒さんのものすごい集中力。話しながらも手を動かし、うーんと頭を悩ませ、また手を動かし…。私たちはギャラリーとして静かに見守るしかできませんでしたが、その風景は普段のワイワイにぎやかなホスピスとは違い、張り詰めながらも良い緊張感に包まれていて。初めて見る光景でした。

そしてできあがったのがこちらのラベルです!

愛里さんデザイン
優太くんデザイン

本人たちが考えてきた「融合と調和」のコンセプトを崩さずに、ちゃんと商品に仕上げる。それが、デザイン。「製品になると色んな商品に埋もれるから、インパクトあるモチーフが必要」「印刷時には色がくすむので、もっと強い色に。インク濃度を高めよう」「デザイナーとイラストレーターの違いは」といった会話があり、フォトショップを使ったエフェクトを試みたり…
制作を通してプロの技と視点がたっぷりレクチャーされていました。

出来上がり後は印刷して、その場で酒瓶に貼ってみました。

杜氏の三好さんも褒めてくれました

2人の表情。デザイナーを目指している優太くんは、この日初めて会った石黒さんが「人生で尊敬できる人5位以内に入る」と興奮気味に話していました。

 

映像で残す、学ぶ

今回、石黒さんと三好さん以外にも協力者がいました。ムービーディレクターの川島真美さんです。当日の様子やお酒の製造過程を映像作品として残してくれました。これもひとつのプロの表出。この映像を見てまたさらなる学びに繋がること、自分たちがめちゃくちゃかっこいいことをできたんだという証になることを期待しています。
ムービーはYouTubeでご覧いただけます!

スタッフとして振り返って

ホスピスの子が素敵な人と出会って貴重な体験ができたらという思いのみで、デザインという仕事をまったく分かっていなかった私。実際に市場に出る商品を作る過程がいかにシビアか、その一部をホスピスの子に委ねてもらえたことがどれだけ貴重なことだったか、全工程を経て初めて理解できました。
でもまだ終わりではありません。10月17日に実際に商品が発売され、その結果をまた彼らが受け止める経験が待っています。
デザイナー、杜氏、ムービーディレクターそれぞれの「大人の本気」に触れた彼らの人生に、少しでも何かを残すことができたなら、とても嬉しいです。

撮影者が多すぎて目線がバラバラな記念写真
仕上がった商品を手にして
裏のラベルには、2人の名前とつるみちゃんが!

 

2人がラベルデザインした日本酒は、2023年10月17日発売です!

プレスリリース用写真

阿武の鶴酒造「MIYOSHI KŌ (コウ)」3,000本限定発売

商品情報をみる(MIYOSHI KŌ(コウ)プレスリリース)

購入方法:下記サイトに掲載されている店舗または店舗が展開しているオンラインストアからご購入下さい。
https://miyoshiabunotsuru.wixsite.com/list

たくさんの想いが詰まった特別なお酒。私たちも味わうのが楽しみです!ラベル制作の2人とは、成人してから一緒に飲めるといいな。

●石黒さん視点のレポートがnoteで読めます♪こちらもぜひ読んでください^^ 
▶noteへ移動する

ご協力いただいたみなさま

クリエイティブディレクター 石黒 篤史
OUWN株式会社代表( http://jp.ouwn.jp/ )。アートディレクションから、グラフィックデザイン、サイン計画、web設計など多角的に企画立案製作に携わる。

阿武の鶴酒造 6代目 三好 隆太郎
明治30年創業の実家・阿武の鶴酒造( https://linktr.ee/abunotsuru)を34年間休業後に復活させ、醸造を開始。看板銘柄「三好」も立ち上げ、国内・海外のファンが多数。

ムービーディレクター 川島 真美
グラフィック・CIデザインをはじめ、抽象的なブランディング映像からキャラクターを動かすアニメーションまで様々な表現方法を用いる。映像作家100人 2022・2023に選出。https://www.mamikawashima.com/

プロジェクト担当スタッフ
川戸大智、古本愛貴子、西出由実