気づけば1年が過ぎて
TSURUMIこどもホスピスが2016年にオープンをしてから、支援が必要な実情を知りながらもティーン世代になかなか迫ることができずにいました。そんな状況を打破するべく、館内を改装し完成したのがTeen Clubhouseです。クラウドファンディングやデザイナーチームとの打ち合わせ、改装工事など完成までに2年を要しました。改装から1年が過ぎて、子どもたちが利用する中で新しく見えてきた景色とこれからについて、夏のイベント風景を交えながら書かせていただければと思います。
利用者数の変化
では、実際にどのように利用しているのかというと年度ごとの利用者数(13~20歳)の変化でみると、2021年度は2名、2022年度は9名、2023年度(9月時点)は20名とティーン世代へのアプローチを始めた2021年から利用者数は伸びてきています。増加の要因としては、ティーン世代に特化した支援(Teen Clubhouseの改装を含む)や医療機関との連携、利用対象枠の拡大(2023年度から20歳までに引き上げ)が考えられます。ティーン世代に特化した支援として力を入れているのが、Teen Clubhouseを日常的に利用してもらうこと、そしてティーン向けイベントです。
日常的に利用してもらうこと
現在入院治療中の子もいれば、学校に通学している子、自宅からオンラインで勉強をしている子。同じホスピスを利用している子でも状況は実に様々です。共通しているのは生命を脅かす病気を経験しているということ。
そんな子たちが平日や週末などに、ホスピスに遊びに来てくれます。家族と一緒に、一人で、友達など、それぞれやりたいことをするために。Teen Clubhouseができて変化したことは遊びの選択肢が広がったこと、子どもたちがやりたいと思っていることを私たちが感じ取れるチャンスが増えたことだと思います。カラオケやゲーム、クラフトなど好きなことをしているとき、夢中になれるものを感じているときは、子どもとの心の距離がすっと近くなる時があります。その時に、本音が聞けたり、胸の内を話してくれる時が増えたように思います。
子どもたちの声を紹介します。
「『子どもの楽園やん!』初めて来た時の感動は薄れることがありません。前日までベットの上で、15分のリハビリもダルかったのに、TSURUMIこどもホスピスに入った途端、何時間でも卓球が出来てしまう魔法にかかったりします。学校の友達とお泊まり、カラオケ、料理作り、花火、沢山の希望が戻ってきた。次はいつ来れるかな…何をしようかな…」
「私は、Teen Clubhouseで友だちとお泊まり会をしました。部屋の雰囲気がとても良くて、家と同じくらい居心地が良かったです。周りに気を使うこともなく、思いっきりやりたいことができて(ご飯をわいわいしながら食べたり、暗い部屋で映画を見たり、夜遅くまでゲームをしたり、、、)本当に楽しい時間を過ごせました。」
子どもの声を拾うこと
利用してくれる子どもたちが増える中でTSURUMIこどもホスピスが今年度目指すテーマです。
そんな声を拾うべく、夏に入る前にティーン世代の子たちにやってみたいイベントのアンケートを取りました。
・ポケモンカード大会をしたい
・お菓子作りをしたい
・ウォーターサバイバルゲームがしたい
・魚を捌きたい
など、たくさんの「やってみたい」を教えてくれました。この夏にすべてを叶えることはできませんでしたが、盛りだくさんだった夏イベントをご紹介します。
「レーザーカッターで水たまりの鏡をつくろう」
「ポケモンカード大会」
「ホラー映画の夜」
「板前体験」
イベントを企画するときに気を付けたことは、希望した子どもの意見をなるべく取り入れること、プロフェッショナルから本物の体験を感じられること、この2点を意識して展開していくようにしました。イベントを企画した子たちからは「夢が一つ叶いました」「みんなが楽しんでくれていてよかった」など、自分のやりたいことが他の人にも伝わる、楽しんでもらえていることが子どもたちにとって貴重な体験にもなっていたと感じました。
TSURUMIこどもホスピスを利用している子たちを年代別に比べると、まだまだティーン世代の利用は少ないです。勉強、学校、夢、友達、将来についてなど色々な要因が重なってくる中に生命を脅かす病気が加わることで本人の意図しない形で諦めざるをえない状況が出てきてしまいます。
病気を治療した後も病気になる前の生活が元通りになるには多くの時間と周囲のサポートが欠かせません。人間関係がうまくいかない、学力が追いつけず学校に行くことが苦痛になってしまう、治療の副作用で容姿に自信が持てない、など「普通の生活」を送ることが困難な道のりとなります。
ある子は「生死をさまようぐらい、色々なものを諦めて治療を頑張ったのに、なんでまた頑張らないといけないの」と勉強の差が埋まらず、苦しんでいました。周りには追い付きたいと思っているけれど、身体や成果が追いつかず振り落とされないようにもがいている姿、葛藤する姿を見てきました。
子どもたちと向き合うとき、これが正解です、というものはありません。その子どもと寄り添うために必要なことを考え続けていく必要があると思います。どんなことに困難さや心配事を感じているのか、子どもたちによって抱える背景や状況などそれぞれ異なります。限りある「今」という時間を大切に過ごしている彼らが、TSURUMIこどもホスピスを通して苦痛や悩みを少しでも忘れられる時間、楽しみや好きを感じられる時間を過ごしてもらいたいと考えています。